瞑想心理カウンセラーリッカのつぶやき

決められないとき、自分の気持ちがわからないとき。あなたの本心をカウンセリングと誘導瞑想で一緒に発見します。

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次男 竹蔵 [ウツボ]

家族との関係を振りかえる課題より。

ジカの8歳年下の弟、次男の竹蔵(たけぞう)について。

 

本名は違うけれど。面白いから竹蔵とする。

 

8歳のジカが、竹蔵と初めて会った日は、少しだけ寂しい記憶として残っている。

薄暗い病院の廊下の奥から、母が竹蔵を抱えてやってくる。両親が少し話し、早々にジカは父と帰ることになった。

帰り際に、竹蔵を姉として暖かく迎えようとジカは考えた。分かりやすい行動は、頭を撫でることだろう。思い切って頭頂部に触れると、母が火のように怒った。

新生児は、頭頂部の骨がまだ固まっていない。一番触れてはいけない箇所であった。

 

自宅の電話で、父が伯母と話をしている。生まれた次男の名前をそろそろ決めなければならない。

父の姉、伯母は名前の画数にうるさかった。ジカとトリ介は、伯母の画数鑑定を経て名付けられていた。

ジカはそっと、電話に集中している父の手元を盗み見た。便箋に30名程度の候補が記されている。いくつかの名前には、赤い丸がつけられていた。ふと、丸で囲まれた「竹蔵(たけぞう)」という名が目につく。このままでは、生まれは平成、名前は江戸時代になってしまう。ジカは一人、弟の将来を案じた。

結局、母が「先日夢で見た名前をつけたい」というスピリチュアル全開な理由で祖母と叔母を説得した。母が付けたい名前をつけるための、方便だったのだろう。こうして、次男は父方曽祖父の名前から一文字を引き継いだ。

 

ジカやトリ介は部活や友人と遊ぶのに忙しく、両親は家業で忙しい。竹蔵は基本的に一人で過ごすことが多かった。

実家の居間に飾られている写真がある。6歳ぐらいの竹蔵が、イチゴのかき氷を食べながら、「どうかしてるよね」と言いたげな表情で噴水を指差している。乗っている馬が桶から水を飲み、半分に切れた馬体から水がほとばしるホラ吹き男爵の噴水であった。

場所は、ジカが竹蔵と同じ歳の頃に、よく家族と一緒に出かけていたテーマパークだった。竹蔵は、母と二人きりで出かけていたのだ。

ジカは覚えている。母から竹蔵と出かけるから、一緒に来ないかと誘われたことを。思春期のジカは「行くわけがない」と不機嫌に断っていた。もし、あの時一緒に行っていたら、竹蔵にまた違った家族の思い出を残せてあげられたのかもしれない。そのテーマパークは、いまや廃墟となっている。

 

竹蔵は小学校に入学すると、水泳少年団に入った。その名もドルフィンズだ。2年間、放課後は近所のプールへ楽しそうに通っていた。

小学校3年生、父親のこだわりから、竹蔵はほぼ無理やり野球少年団に入ることとなる。竹蔵は運動神経があまり良くなかったが、父の言いつけ通り素直に頑張った。

小学4年のある日、竹蔵が練習着のまま泣きながら帰ってきた。母が時間をかけて理由を尋ねると、この数ヶ月続いていた出来事を竹蔵はやっと話した。

丸い大きな体で、ベースランニングの練習をしていると、小学3年生の後輩2人が、竹蔵が走るたびに笑い、真似を始める。そのうち、直接竹蔵をはやし立て、あまりにも不快なことを大声でのたまうのだ。竹蔵も我慢をしていたが、とうとう悔しさから耐えられなくなったのだった。

 

家での父親は、アニメ「巨人の星」を教典とするような単純明快な指導者だった。「お前はダメだ。何をやっているんだ。そうじゃない」と怒り、こと野球に関しては怒鳴れば人は成長すると思っていた。

要領と運動神経の良い、長男トリ介はそれでもうまくやった。ジカと竹蔵は、脱落して行った。

母は、無理に続けさせても、竹蔵がただ傷つくだけと判断した。半ば喧嘩腰で父親を説得し、竹蔵は少年団を辞めたのだった。

 

野球を辞めた竹蔵は、動かずご飯とお菓子ばかり食べる子供になる。母親も「あの時、ドルフィンズをやめさせるのではなかった。竹蔵のしたいことを優先するのだった」と後悔していた。その穴埋めのように。大量に食事を作り与え続けた。上の子のように、出かけることもイベントもしてあげられない末っ子へ愛情の代わりに、母は与え続けていた。もともと母は、犬も猫も人も、丸々と太らせることが好きだったので誰も止める人はいなかった。

 

竹蔵は、暗い目つきに自己評価が地を這う、182センチ130キロの巨漢となる。ただ、まとう空気は熊の置物のようでどこか憎めない。

映画が好きで、よほどマニアックなものは別として、洋画のほとんどを記憶している。ジカが思い出せない映画のタイトルや見どころを、尋ねればその場ですぐに教えてくれた。

他者と適切に関わることが苦手で、かなりお勉強ができない。デザイン系の専門学校を卒業し、家業を数時間だけ手伝う。あとは好きに食べて寝て、鉛筆で人体のデッサンをして過ごす。実家が自営業でなければ、行き場をなくしていただろう。

ジカは、自分の人生以上に竹蔵の人生をどうにかしたいと思っていた。親亡き後のことを考え、何とかしてやらないといけないと勝手に心配していた。

 

ある日、ジカが熱心に月刊ムーを読んでいると、竹蔵が話しかけてきた。

「知ってる?ヒールの方が、実際は性格がいい人が多いんだよ」

何の話かと思えば、プロレスの悪役のことらしい。笑顔のまま、竹蔵は続ける。

「本当に気質がいいから、ヒールになって周りを盛り立てられるんだよ」

 

 

数年後。

心理学の基礎講座の動画を、ジカは視聴している。「家族の役割」の解説が始まる。ジカは画面を見ずに、手元のノートに内容をまとめていた。ある項目で、その手が止まった。

 

問題児(ヒール)

その人が、家族、組織の全ての問題を引き受けている。その人が問題を起こすことで、他の人が自身の問題に気づかずに済んでいる。グループの負の象徴。たとえ、家族から問題児をなくしても、誰かが新たな問題児になる。

他者は、問題児の問題こそ自分自身の問題だと理解すること。

問題児は、自分が問題を引き受けていると理解すること。その問題に向き合い手放す。問題児は、リーダーに変わる。