出る杭、とは少しちがうかもしれないけれど。
10歳
全校集会。校長先生の話がとても長い。原稿もなく1時間以上話し続けている。ジカは、ただぼんやりと立っていた。
誰か生徒が問題を起こした。それについて全校生徒に注意喚起をしていたか、経緯説明であったか。いずれにしても長く、収束する気配はしない。
ジカは、母が編み込んでくれた三つ編みを、気づかないうちに左手で触れていた。
直毛なのではみ出した毛はチクチクとするが、編み目は艶々としてとても手触りが良い。そのうち、得意の妄想がはじまり出した。
「お前、何をしている」
妄想から急に引き戻される。驚いて横を見ると、教頭先生がジカを睨んでいた。
「髪から手を離しなさい」
驚きながらも、言われたとおりに左手を外す。教頭先生が立ち去ったあとも、ジカは動悸がおさまらなかった。
ややしばらくして、校長先生のお話が終わる。今回、珍しく教頭先生もお話があると言う。
舞台に教頭先生が登場しただけで、体育館全体に緊張が走る。
「皆に、伝えたいことがある」
全校生徒が姿勢を正す。
「お前達は、人の話を聞く態度がなっていない。特にお前だ」
教頭先生は壇上からジカを指差した。
小さな小学校だったが、体育館には400名の生徒が集まっていた。その全員が、指さす先を探して一斉に振り返り確かめようとする。
ジカだけが真っ直ぐ、教頭先生を見ていた。
「ごちゃごちゃと髪を触っていたら相手に失礼だ」
マイク越しに言い放ったあと、教頭先生は早歩きで壇上を降りていく。
確かに、肩まで掛かる三つ編みを撫でていたのはジカだけだった。しかし、落ち着きなく体を動かしていた生徒は大勢いた。全校生徒の前で、再度注意を行う理由がジカには分からなかった。恥ずかしさと怒りで、その後のことを、ジカはよく覚えていない。
頭のネジがどこかにいってしまったのか。後に、大勢の前に出る場面でも、過剰に緊張することはなくなった。
一方的に晒されるぐらいなら、自分の意思で姿を見せたほうがいい。
静かな利かん坊は、クラスをまとめる気もないのに委員長に立候補する。セリフを覚える気もないのに、学芸会の劇で重要な役に名乗りを上げる。
ジカは、集団が苦手な、野生動物のような気質なのに、時折人前で目立とうとするようになる。おかしな思春期の始まりであった。
(思い出して、文字にするだけで動悸が激しくなった。ちなみに、教頭先生の毛髪は薄かった。そして、校長先生の長話によって生徒の忍耐力を養う、という隠された教育課程があったとしても私は驚かないっ)